◀前 【16.季氏:第13】 次▶
陳亢問於伯魚曰。子亦有異聞乎。對曰。未也。嘗獨立。鯉趨而過庭。曰。學詩乎。對曰。未也。不學詩。無以言。鯉退而學詩。他日又獨立。鯉趨而過庭。曰。學禮乎。對曰。未也。不學禮。無以立。鯉退而學禮。聞斯二者。陳亢退而喜曰。問一得三。聞詩聞禮。又聞君子之遠其子也。
陳亢ちんこう伯魚はくぎょいていわく、ぶんるか。こたえていわく、いまだし。かつひとつ。はしりてにわぐ。いわく、まなびたるか。こたえていわく、いまだし。まなばざれば、もっうことしと。退しりぞきて詩をまなぶ。じつまたひとつ。はしりてにわぐ。いわく、れいまなびたるか。こたえていわく、いまだし。れいまなばざれば、もっしと。退しりぞきてれいまなぶ。しゃけり。陳亢ちんこう退しりぞきてよろこんでいわく、いちいてさんたり。れいき、またくんとおざくるをけり。
陳亢ちんこうが伯魚にたずねた。――
「先生もあなたにだけは、何か私どもに対するとはちがった特別のご教訓をなさることでしょう」
伯魚がこたえた。――
「これまでには、まだこれといって特別の教えをうけたことはありません。ただ、いつでしたか、父が独りで立っていましたおり、私がいそいで庭先を通り過ぎようとしますと、私を呼びとめて、詩を学んだか、とたずねました。私が、まだとこたえますと、詩を学ばない人間は話相手にならぬ、と叱りました。それ以来私も詩を学ぶことにしています。またある日、父が一人で立っていました時、私がいそいで庭先を通り過ぎようとしますと、私をよびとめて、礼を学んだか、とたずねました。私が、まだとこたえますと、礼を学ばない人間は世に立つ資格がない、と叱りました。それ以来、私も礼を学ぶことにしています。私が父に特別に何かいわれたことがあるとすると、まずこの二つぐらいのことでしょう」
陳亢は、伯魚と別れたあとで、よろこんでいった。――
「きょうは一つのことをたずねて、三つのことをきくことができた。詩を学ぶことの大切さをきき、礼を学ぶことの大切さをきき、そして、君子は自分の子をあまやかすことがないということをきいたのだ(下村湖人『現代訳論語』)