だいあろーぐ 「東京彩人記」
利用者と対話する駅を 建築家・安藤忠雄さん
 池袋-新宿-渋谷を縦断する東京メトロ副都心線が14日に開通する。その終点で、12年度には東急東横線も相互乗り入れするようになる「新・渋谷駅」を設計したのが、世界的建築家の安藤忠雄さん(66)だ。駅の中央に卵形の壁を配置し、吹き抜けを通して地上の風が入り込むようにするなど、大胆な構造が印象的。「地宙船」と呼ばれる新駅を一緒に歩きながら、設計の意図を聞いた。

----駅に入ると、吹き抜けがあるのに驚かされます。
 地上からの風と電車が巻き起こす風が合わさって基本的には空調がなくてもいいようにした。地下30㍍まで自然の風が入ってくる駅は海外にもない。さらに吹抜けを通して、上の階からでも電車が見えるようになっている。普通の地下鉄駅は表示板力ないとどこを歩いているか分からなくなるが、この駅だと、どこにいるかがすぐに分かる。

----駅のコンコースが卵状の壁で覆われているのも大胆です。
 渋谷は今や東京の中心。ここから何かが生まれてほしいと思った。来た人がまた行ってみたいなあとか、面白かったと思ってくれるだけでもいい。

----地下鉄駅に曲線があるのは新鮮です。
 建設会社は勘弁してと、思ったろうけどね。でも、現場の人たちの工夫と頑張りで実現できた。とても近代的な駅だけど、日本人らしさがあるんですよ、この駅は。日本の数寄屋建築とかは、きめが細かいでしょう。その細かさが隅々まで出ている。さらに現場で働く人の技術レベルの高さ。もっと日本人は職人を大切にしないといけない。そういう人が戦後の日本を作ってきたのだから。

----今までの画一的な地下鉄駅のイメージとは全く違います。
 駅は印象的な方がいいでしょう。今はどこの駅も同じような形をしていて、乗り換えが遠いことしか印象に残らない(笑)。ローコストでスピーディーにできるものを優先した結果だろうが、建築はもっと面白さを追求すべきだ。「この駅は面白いなあ」と思ったときに利用者は駅と対話するようになる。ここが「自分の駅」と思えれば、汚したりしなくなるだろう。

----地上につながる吹き抜けには壁面緑化もあります。
 「緑がいっぱいの東京」というイメージを地下でも作りたかった。今、東京湾のごみ埋め立て地を緑の森にする「海の森事業」の委員長をしている。東京湾から都心部へ風が吹き、それが渋谷駅まで届くのが理想だ。緑いっぱいの東京になれば、世界でも珍しい都市になる。

----単に駅だけの事業ではない?
 そう。駅、緑化、海の森。一つ一つの事業が連続しないといけない。そうすれば、今は面倒くさいと思っている人も緑化に協力するようになるだろう。
 自然と共に生きてきたことが日本人の感性を作ってきた。なのに戦後は逆のことをやって経済大国・日本ができた。今また原点に戻るのもいいでしょう。

【記者の一言】
安藤忠雄さんと言えば、鋭い眼光の写真ばかりを思い出す。さぞやおっかない人なのだろうと思っていたら、取材の合間も雑談で周囲を笑わせ続ける大阪人。建築家というよりも、まずその人間的な魅力にひかれた。
「今は何でもフラットな時代。最近の学生はみんな同じ顔をしていて、パワーがないよ」と嘆く安藤さん。
「東急電鉄に嫌がられながら設計した」と笑う個性的な駅を紹介しながら、「建築にはパワーがないといけない」と力説する。でも、地下深い駅の中を精力的に動き回る安藤さんを見て、「まず設計する人にパワーがないと、建築にも迫力が出ないのだろう」と思った。
聞き手/社会部・前谷宏記者

 あんどう・ただお 1941年大阪府生まれ。
独学で建築を学び、69年に安藤忠雄建築研究所を設立。日本芸術院賞やレジオン・ドヌール勲章(フランス)など国内外の数々の賞を受賞。エール大やハーバード大の客員教授などを歴任し、97年には東大教授に。03年から名誉教授。代表作に「光の教会」(大阪府)や「表参道ヒルズ」(渋谷区)など。瀬月内海の自然を回復させるための「瀬戸内オリーブ基金」を設立するなど、環境保護活動にもカを入れている。
《出典》毎日新聞 (20/06/04) 前頁      次頁