目を三角にする
《天声人語》
 目にまつわる成句は多いが、「目を三角にする」は、激しく怒る様を表す。そんな怒っているような目が、街や道にあふれている。車のヘッドライトのことである。
 「不機嫌な顔」と題した投書を頂いた。ライトは、以前は丸形か正方形に近かったのに、長方形のものが出て、それが細長くなり、とがった三角形が増えた。その不機嫌で怒ったような形に、何か敵意の表れのようなものを感じるとあった。
 1950年代ごろを舞台にしたアメリカ映画などを見ると、車の目は確かに丸形が多い。車体から筒状に出た出目金風のものもある。ひょうきんさと共に落ち着きも備えていた。車体のデザインが、一時の角形から丸っこい方へ流れてきた分、このごろの目の鋭さは印象的だ。
 車の顔が改めて気になるのは、三菱自動車の欠陥隠しなどのためだ。タイヤが外れる、運転不能の車が暴走する、炎に包まれる。惨事が、いつ、どこで起きても不思議ではないと思わせる。これ以上、目を三角にしようもないほどの、ひどい事態である。
 元社長らは起訴されたが、欠陥の点検の遅れが心配だ。部品が脱落したり、ブレーキが利かなくなったりする恐れがあるという欠陥では、届け出から1カ月過ぎたのに、点検に応じたのは対象車の1割程度でしかない。
 仕事で車を休ませにくいのかも知れない。しかし、メーカーの欠陥隠しによって生じた危険の種を、消費者が引き継ぐ形で事故を引き起こしてはなるまい。そうでなくても、この車社会では、年に8千人近い命が失われているのだから。
《出典》朝日新聞 (16/07/03) 前頁      次頁