水一滴で永久機関
超テク 日本の底力
 20XX年。石油枯渇まであと数年と迫った地球ではガソリン価格が急騰、2003年当時の10倍近くに跳ね上がっている。かつては石油や天然ガスから取り出した水素で燃料電池車を走らせていたが、今は水を水素と酸素に分解。しかも、その水も燃料電池が排出するものを使う。消費するのは水を分解するための太陽光や風力などの自然エネルギーだけ。ホンダの吉野浩行社長が「究極の循環システム」と呼んだ仕組みが実を結びつつある

●燃料電池車向け
 ホンダの研究開発子会社、本田技術研究所(埼玉県和光市)はこんな近未来の姿を前提に水素製造・供給技術の開発に取り組んでいる。その成果が米ホンダR&Dアメリカズのロサンゼルス研究所内「水素製造・供給ステーション」だ。
 太陽光が降り注ぐ力リフォルニア。約66平方㍍敷き詰めた太陽電池パネルで発電する。その電気で水から水素を取り出す電解装置と、水素の作業効率を上げる圧縮系、高圧水素を蓄える高圧タンクの三システムが並ぶ。
 それぞれは、小型冷蔵庫並みの大きさ。燃料電池車に水素を供給する高圧タンクは、車載タンクに水素を送り込むノズルや一般利用者向けの操作説明パネルを備える。今は三つ並ぶが、実用化段階では「一つに集約する」(本田技術研究所の判田圭研究員〉見通しだ。
 タンク圧力が約350気圧の状態で製造能力は年間5700㍑。燃料電池車が1万マイル(約1万6千㌔)走行するのに必要な燃料に相当する。商用電力を併用すれば年間2万6千㍑まで増産できる。
 太陽光パネルの大きさが戸建ての屋根大に収まれば、ガレージにタンクシステムを配置し「将来は各家庭で水素製造・供給ができる」(同)。一晩かければタンクを満タンにできるという。市街には現在のガソリンスタンドに代わる水素スタンドが並び、1回3分程度で充てん可能になる。
●渓流の水車復権
 ホンダは同ステーションで太陽光と水の組み合わせを提案したが、例えば国策として風力を推進しているオランダなら太陽電池の代わりに風力発電と組み合わせればよい。
 自然エネルギーがある限り自動車は走る。コップの中に水があれば首振り運動を繰り返す「水飲み鳥」の玩具を思わせ、あたかも“永久機関”のようだ。
 瀬戸内から鳥取県に抜ける古道、印幡街道沿いの山あいに位置する兵庫県一宮町。その山中にある青少年育成センターに昨年暮れ、電灯がともった。その源が水車を使った「マイクロ水力発電」だ。
 付近の渓流に水道用のパイプで取水する。ごみを取り除き、斜面の下に置いた水車を回すという素朴な道具だが内部には2個のインバーター装置。水車で作った交流200ボルトの電力をACコンパーターで直流に変換した上でインバーターで水車の負荷が常に一定になるように制御し、もう一度交流に戻す。開発したジーエス技術サービス(大阪市)によると、発電効率は従来の水車発電の60%から90%に向上したという。
 当初は自然エネルギーの利用を検討していたが、同センターの建設予定地は谷間で風通しが悪く、日照時間も短い。そこで太陽光や風力ではなく、水車に白羽の矢が立ったのだ。

●浄水場に施設
 水道が電気を生む
今月八日、クボタと水道技術研究センターは上水道管を通る水の力で水車を回して発電する新型発電システムの実証実験に入った。
 設備は埼玉県庄和町の浄水場に設置。上水道は浄水場から高圧をかけて水を送りだし途中で減圧して家庭に配水する。この減圧装置を水車に置き換えれば、エネルギーを取り出せる。実験では出力35㌔㍗の設備で浄水場管理棟などに電力を供給している。
 20世紀、資源・エネルギー問題は日本のアキレス腱だった。自然の力を超テクで制御した時、日本は新エネルギー大国に浮上する。
《出典》日経産業新聞 (15/01/15) 前頁      次頁