ABO型といえば
天声人語
 ABO型といえば、血液型を思い浮かべる。オーストラリアで大学教授をしている杉本良夫さんは「労働の型のことです」と言った。
 里帰りした氏と雑談していたときのことだ。「オーストラリアは数字の上ではそれほど豊かな国ではない。しかし皆、実に豊かな暮らしをしている。なぜか」を考えた、と。著書『オーストラリア』(岩波新書)にもある杉本説はこうだ。
 会社や商店で働くのとは別の労働がある。収入を得るための前者をA型とすれば、後者をB型と名付けよう。オーストラリアの人たちはB型重視だ。杉本さんは、自宅の向かいにいた夫婦を例にあげる。最初は粗末な住宅に住んでいた。しかし、夫が毎日5時間ほどかけて改装を重ね、数年後には豪邸になった。そんな人がまわりにはたくさんいる、と。
 家に限らない。車や家具など何でも自分で手を入れて改良してしまう人たちだ。このB型人間は危機にも強い。たとえば、ガスの供給が止まったときがあった。B型はさまざまな工夫をして急場をしのいだ。老後に強いのもB型だ。定年になっても、B型労働の時間がふえるだけで、戸惑いはない。
 そう見てくると、いまの日本人はあまりにA型に偏っているのではないかと思えてくる。それは経済指標を押し上げはするだろうが、暮らしの豊かさに必ずしも直結しない。昔はそうでもなかったと思う。いつのまにかB型に弱くなった。
 杉本さんは「私もBが苦手で」と苦笑した。ところでO型とは? AもBもしたくない人のことで、これはどこの国にもいそうだ。
《出典》朝日新聞 (13/05/21) 前頁      次頁