木は紙になるが、紙が木になるとは思わなかった
毎日新聞「余禄」
 木は紙になるが、紙が木になるとは思わなかった。その紙も、古紙の中では強度が低く再生紙としての用途が限られている漫画雑誌。ドラえもんだったら秘密道具で「ちょちょいのちょい」というところだろうが。
 大阪・ミナミにある若者の街「アメリカ村」で、道端や公園に大量に捨てられる雑誌や包装紙を角材と床板に変える計画が、商店主たちによって進められている。試作品は既にでき上がり、伸縮性などをじっくり確かめてからログハウスを建てるそうだ。
 街の清掃日に歩道を掃除していたブティックの若い女性店員が「紙は木からできてるのに、なんで木に戻されへんの」とこぼしたのがきっかけ。これを聞いて「おもろい」と考えた商店会の会長、森本啓一さんもなかなかの柔らか頭である。本業は建築の設計士さんだ。
 工程の中で廃水が出たり、製品を燃やして有毒ガスが出るようでは意味がない。兵庫県の化工機メーカーの力を借りて、雑誌を綿状にほぐし体にやさしい接着剤を噴霧してプレスすると、うまくいった。漫画雑誌が一番ほぐしやすく、断熱、防音効果も上々。漫画20冊で、長さ1メートルの角材ができた。
 「OA化・デジタル化でペーパーレス」のはずのオフィスが、コピー機とプリンターで紙だらけになっている。パソコンを買えば家でも印刷をしたくなる。昨年、国内で約3000万トンの紙・板紙が生産されているが、まだまだ増えていきそうだ。古紙の再生率を上げないと、それだけ紙は無駄になる。
 1人当たりの紙の消費量が1番の国はアメリカである。日本は6位。もしかすると国の電脳度と紙の消費量には相関関係があるのかもしれない。「アメリカ村」の試みは時代の前を走っている。森本さんたちの夢は、街に「エコ・ミュージアム」を造ることという。ますます応援したくなる。
《出典》毎日新聞 (12/03/06) 前頁      次頁