東京ドームの設計にコスト感覚持ち込む
竹中工務店常務 村松映一氏
 入社以来、設計畑一筋で来た私にとって最も印象に残っているビッグプロジェクトがある。84年に設計部長という責任者の立場で設計に携わった東京ドームだ。以前にも西武池袋線・池袋駅の改装など大型事業を手がけたことはあった。しかし、大型のドームは初めてだ。前例もないうえ、それまでの経験の枠に当てはまらないことが多く、設計者としての考え方に大きな影響を受けた。
 規模が小さい事業は、問題が生じても、施主と話し合い、技術の範囲で解決できた。ドームのような大型物件となるとそうはいかない。周囲の住民、業界関係者、役所など多くの関係者が評価し、納得するような計画を立てなければならず、ブレゼンテーションに費やす時間が多かった。今振り返れば、非常にやりがいのある仕事だった。
 日々走り回る中で、今では当たり前のことだが、設計現場にコスト感覚を持ち込んだことは大きな収穫だった。以前は、私も含め設計者は良いものを作ることだけを考えて図面を描きがちだった。そのため東京ドームの建設コストはどんどん膨らんでしまい、現実に即した建築費に何度も設計し直さなければならなかった。試行錯誤の末、390億円と予想より大幅に少なく抑えることができた。
 その後福岡ドームを手がけた際、東京ドームの経験が役に立った。入札で、事業費を1000億円とした企業もあった中で、当社は480億円という計画を立てられたからだ。
 費用は足し算でなく、枠組みを決めてその中で最高の設計を目指す。設計者は経営者の感覚が必要だ。若い設計者を指導する立場になった今、これをぜひとも伝えていきたい。
《出典》日経産業新聞 (11/06/17) 前頁      次頁