青木雄二の「ナニワ資本論」
ゼネコンにも外資を
本紙の手塚治虫文化賞優秀賞を僕が受賞した記事を見て、かつてサラリーマン時代に、同じ釜の飯を食った後輩が連絡をしてきました。
彼は、地方の字の付く山間僻地で、トンネル工事の現場所長をしておりました。
彼の会社は中堅ゼネコンで、経営内容は非常に厳しいとのことです。「ワシらは現場から現場を渡り歩いてやれ一億儲けた、二億儲けたと自己満足と誇りを持っていた。
だが、上の者が本業とは言い難い不動産に手を出し、何千億円という巨額損失だ」とこぼすことしきりでありました。賃金もボーナスも二割カットは避けられないとのこと。
「頭に来て退職は考えなかったのか?」と問いますと、「とんでもない。まだ高校と中学の娘がおり、住宅ローンも十五年残っている」とのことでした。お互い五十歳にもなると、軽はずみな行動は慎むべく成長するものだなーと、しみじみ思った次第です。しかも、倒産やりストラの憂き目にあった人に比べればまだましだし、そもそも不況の元凶はゼネコンで、自業自得でもある、と殊勝な意見でありました。
そんな折、自民党から「大手ゼネコン、不動産業の不良債権処理に公的資金を投入するのが経済回復には必要」といった意見が出ておりました。なんたる愚行をくり返すつもりなのでしょう。
日本は土建国家といわれるほど、長い間ゼネコンが政治となれ合い、談合により競争努力もせず、公共事業という名で国民の税金を食い荒らし、ぬくぬくと太った結果がバブル崩壊とも言えるのです。
いまや生き残りを賭けて自動車業界も証券会社も、外国資本との提携や合併を相次いでしております。
日本のゼネコンもアメリカのゼネコンと資本提携するなり吸収合併されるなりして、なれ合いを断ち切る良いチャンスなのですから、国民の血税を投入して救済すべきでははいと思います。
「日本の土木技術レベルは世界一。外国のゼネコンに任せるのは危険」という御用学者が出てくるかもしれませんが、ロサンゼルス大地震で破壊された高速道路を見て、「日本では考えられない」と豪語していた学者の意見が真っ赤なウソだったのは、阪神大震災が証明しました。
アメリカの技術力は日本と比べても決して引けを取らないと思いますし、何より、老朽化したビルをダイナマイトで、どの方向にでも崩す技術力には舌を巻かざるをえません。
もはや大不況の日本では、新築よりも、地上げ失敗で歯抜けになった土地に残された建物や、ハイテクに対応できない古いビルが目立つ時代ですから、ますます破壊の需要が見込めると思います。
日本のゼネコンは大いにアメリカに吸収合併され、低コスト、低予算でまず古い建物を取り壊す地味な作業から取りかかるべきです。
《出典》朝日新聞 (10/06/13) 前頁      次頁