◀前 【18.微子:第07】 次▶
子路從而後。遇丈人以杖荷蓧。子路問曰。子見夫子乎。丈人曰。四體不勤。五穀不分。孰爲夫子。植其杖而芸。子路拱而立。止子路宿。殺雞爲黍而食之。見其二子焉。明日子路行以告。子曰。隠者也。使子路反見之。至則行矣。子路曰。不仕無義。長幼之節。不可廢也。君臣之義。如之何其可廢之。欲絜其身而亂大倫。君子之仕也。行其義也。道之不行。已知之矣。
子路しろしたがいておくる。じょうじんつえもっかごになうにう。子路しろいていわく、ふうたるか。じょうじんいわく、たいつとめず、こくわかたず、たれをかふうすと。つえててくさぎる。子路しろきょうしてつ。子路しろとどめて宿しゅくせしめ、にわとりころしょつくりてこれくらわしめ、二子にしまみえしむ。明日めいじつ子路しろきてもっぐ。のたまわく、隠者いんじゃなりと。子路しろをしてかえりてこれせしむ。いたればすなわれり。子路しろいわく、つかえざればし。ちょうようせつはいすべからざるなり。君臣くんしんは、これ如何いかんこれはいせん。いさぎよくせんとほっして大倫たいりんみだる。くんつかうるや、おこなうなり。みちおこなわれざるは、すでこれれり。
子路が先師の随行をしていて、道におくれた。たまたま一老人が杖に草籠をひっかけてかついでいるのに出あったので、彼はたずねた。――
「あなたは私の先生をお見かけではありませんでしたか」
老人がこたえた。――
「なに? 先生だって? お見かけするところ、その手足では百姓仕事をなさるようにも見えず、五穀の見分けもつかない方のようじゃが、それでいったいお前さんの先生というのはどんな人じゃな」
老人はそれだけいって杖を地につき立てて、草を刈りはじめた。――
子路は手を胸に組んで敬意を表し、そのそばにじっと立っていた。
すると老人はなんと思ったか、子路を自分の家に案内して一泊させ、鶏をしめたり、黍飯きびめしをたいたりして彼をもてなしたうえに、自分の二人の息子を彼にひきあわせ、丁寧にあいさつさせた。
翌日、子路は先師に追いついて、その話をした。すると先師はいわれた。――
「隠者だろう」
そして、子路に、もう一度引きかえして会ってくるように命じられた。
子路が行って見ると、老人はもういなかった。子路は仕方なしに、二人の息子にこういって先師の心をつたえた。――
「出でて仕える心がないのは義とはいえませぬ。もし、長幼の序が大切でありますなら、君臣の義をすてていいという道理はありますまい。道が行なわれないからといって自分の一身をいさぎよくすれば、大義をみだすことになります。君子が出でて仕えるのは、君臣の義を行なうためでありまして、道が行なわれないこともあるということは、むろん覚悟のまえであります」(下村湖人『現代訳論語』)