◀前 【17.陽貨:第07】 次▶佛肸召。子欲往。子路曰。昔者由也聞諸夫子。曰。親於其身爲不善者。君子不入也。佛肸以中牟畔。子之往也。如之何。子曰。然。有是言也。不曰堅乎。磨而不磷。不曰白乎。涅而不緇。吾豈匏瓜也哉。焉能繋而不食。
仏肸召す。子往かんと欲す。子路曰く、昔者由や諸を夫子に聞けり。曰く、親ら其の身に於いて不善を為す者には、君子は入らざるなりと。仏肸中牟を以て畔く。子の往くや之を如何と。子曰く、然り。是の言有るなり。堅きを曰わずや、磨すれども磷がず。白きを曰わずや、涅して緇まず。吾豈に匏瓜ならんや。焉んぞ能く繋りて食われざらんや。
仏肸が先師を招いた。先師はその招きに応じて行こうとされた。すると子路がいった。――
「かつて私は先生に、君子は、自分から進んで不善を行なうような人間の仲間入りはしないものだ、と承ったことがあります。仏肸は、中牟に占拠して反乱をおこしている人間ではありませんか。先生が、そういう人間の招きに応じようとなさるのは、いったいどういうわけでございます」
先師がいわれた。――
「さよう。たしかに私はそういうことをいったことがある。だが、諺にも、ほんとうに堅いものは、磨っても磨ってもうすくはならない、ほんとうに白いものは、そめてもそめても黒くはならない、というではないか。私にもそのぐらいの自信はあるのだ。私をあの匏のような人間だと思ってもらっては困る。食用にもならず、ただぶらりとぶらさがっているあの匏のような人間――どうして私がそんな無用な人間でいられよう」(下村湖人『現代訳論語』)