◀前 【14.憲問:第42】 次▶子撃磬於衞。有荷蕢而過孔氏之門者。曰。有心哉撃磬乎。既而曰。鄙哉。硜硜乎。莫己知也。斯已而已矣。深則厲。淺則掲。子曰。果哉。末之難矣。
子、磬を衛に撃つ。蕢を荷いて孔氏の門を過ぐる者有り。曰く、心有るかな磬を撃つやと。既にして曰く、鄙なるかな。硜硜乎たり。己を知る莫くんば、斯れ已まんのみ。深ければ則ち厲し、浅ければ則ち掲すと。子曰く、果なるかな。之を難しとする末し。
先師が衛に滞在中、ある日磬をうって楽しんでいられた。その時、もっこをかついで門前を通りがかった男が、いった。――
「ふふうむ。ちょっと意味ありげな磬のうちかただな」
しばらくして、彼はまたいった。――
「だが、品がない。執念深い音だ。やっぱりまだ未練があるらしいな。認めてもらえなけりゃあ、ひっこむだけのことだのに」
それから彼は歌をうたいだした。
「わしに添いたきゃ、渡っておじゃれ、
水が深けりゃ腰までぬれて、
浅けりゃ、ちょいと小褄をとって。
ほれなきゃ、そなたの気のままよ」
それをきいていた門人の一人が、先師にそのことを話すと、先師はいわれた。――
「思いきりのいい男だ。だが、思いきってよければ、何もむずかしいことはない。大事なのは、一身を清くすることではなくて、天下とともに清くなることなのだ」(下村湖人『現代訳論語』)