◀前 【14.憲問:第37】 次▶子曰。莫我知也夫。子貢曰。何爲其莫知子也。子曰。不怨天。不尤人。下學而上達。知我者其天乎。
子曰く、我を知るもの莫きかな。子貢曰く、何為れぞ其れ子を知る莫からんや。子曰く、天を怨みず、人を尤めず、下学して上達す。我を知る者は其れ天か。
先師が嘆息していわれた。――
「ああ、とうとう私は人に知られないで世を終りそうだ」
子貢がおどろいていった。――
「どうして先生のような大徳の方が世に知られないというようなことが、あり得ましょう」
すると先師は、しばらく沈黙したあとでいわれた。――
「私は天を怨もうとも、人をとがめようとも思わぬ。私はただ自分の信ずるところに従って、低いところから学びはじめ、一歩一歩と高いところにのぼって来たのだ。私の心は天だけが知っている」(下村湖人『現代訳論語』)