◀前 【14.憲問:第14】 次▶子問公叔文子於公明賈曰。信乎。夫子不言不笑不取乎。公明賈對曰。以告者過也。夫子時然後言。人不厭其言。樂然後笑。人不厭其笑。義然後取。人不厭其取。子曰。其然。豈其然乎。
子、公叔文子を公明賈に問いて曰く、信なるか、夫子は言わず、笑わず、取らずとは。公明賈対えて曰く、以て告ぐる者の過ちなり。夫子は時にして然る後に言う。人其の言うことを厭わず。楽しみて然る後に笑う。人其の笑うことを厭わず。義にして然る後に取る。人其の取ることを厭わず。子曰く、其れ然り。豈に其れ然らんや。
先師が公叔文子のことを公明賈にたずねていわれた。
「ほんとうでしょうか、あの方は、言わず笑わず取らず、というような方だときいていますが?」
公明賈がこたえていった。
「それはお話しした人の言いすぎでございましょう。あの方は、言うべき時になってはじめて口をひらかれますので、人があの方を口数の多い方だとは思わないのです。あの方は心から楽しい時にだけ笑われますので、お笑いになるのが鼻につかないのです。また、あの方は、筋道の立つ贈物だけをお取りになりますので、お取りになっても人が気にしないのです」
すると先師がいわれた。――
「なるほど、その通りでしょう。うわさなどあてになりませんね」(下村湖人『現代訳論語』)