◀前 【12.顔淵:第22】 次▶樊遅問仁。子曰。愛人。問知。子曰。知人。樊遅未達。子曰。舉直錯諸枉。能使枉者直。樊遅退。見子夏曰。郷也吾見於夫子而問知。子曰。舉直錯諸枉。能使枉者直。何謂也。子夏曰。富哉言乎。舜有天下。選於衆。舉皐陶。不仁者遠矣。湯有天下。選於衆。舉伊尹。不仁者遠矣。
樊遅仁を問う。子曰く、人を愛す。知を問う。子曰く、人を知る。樊遅未だ達せず。子曰く、直きを挙げて諸を枉れるに錯き、能く枉れる者をして直からしむ。樊遅退き、子夏を見て曰く、郷に吾夫子に見えて知を問うに、子曰く、直きを挙げて諸を枉れるに錯き、能く枉れる者をして直からしむ、と。何の謂いぞや。子夏曰く、富めるかな言や。舜天下を有ち、衆より選んで皐陶を挙ぐれば、不仁者遠ざかる。湯天下を有ち、衆より選んで伊尹を挙ぐれば、不仁者遠ざかれり。
樊遅が仁の意義をたずねた。先師はこたえられた。
「人間を愛することだ」
樊遅がさらに知の意義をたずねた。先師はこたえられた。――
「人間を知ることだ」
樊遅はまだよくのみこめないでいた。すると先師がいわれた。――
「まっすぐな人を挙用して、まがった人の上におくと、まがった人も自然に正しくなるものだ」
樊遅は室を出たが、子夏を見るとすぐたずねた。――
「さきほど、私は先生にお会いして、知についておたずねしました。すると先生は、まっすぐな人を挙用して、まがった人の上におくと、まがった者も自然に正しくなる、といわれましたが、これはどういう意味でございましょうか」
子夏がこたえた。――
「含蓄の深いお言葉だ。昔、舜帝が天下を治めた時、衆人の中から賢人皐陶を挙げて宰相に任じたら、不仁者がすがたをひそめたのだ。また殷の湯王が天下を治めた時、衆人の中から賢人伊尹を挙げて宰相に任じたら、不仁者がすがたをひそめたのだ」(下村湖人『現代訳論語』)