◀前 【12.顔淵:第08】 次▶棘子成曰。君子質而已矣。何以文爲。子貢曰。惜乎。夫子之説君子也。駟不及舌。文猶質也。質猶文也。虎豹之鞟。猶犬羊之鞟。
棘子成曰く、君子は質のみ。何ぞ文を以て為さんと。子貢曰く、惜しいかな、夫子の君子を説くや。駟も舌に及ばず。文は猶お質のごとく、質は猶お文のごときなり。虎豹の鞟は猶お犬羊の鞟のごとし。
衛の大夫棘子成がいった。――
「君子は精神的、本質的にすぐれておれば、それでいいので、外面的、形式的な磨きなどは、どうでもいいことだ」
すると子貢がいった。
「あなたの君子論には、遺憾ながら、ご同意できません。あなたのような地位の方が、そういうことをおっしゃっては、取りかえしがつかないことになりますから、ご注意をお願いいたします。いったい本質と外形とは決して別々のものではなく外形はやがて本質であり、本質はやがて外形なのであります。早い話が、虎や豹の皮が虎や豹の皮として価値あるためには、その美しい毛がなければならないのでありまして、もしその毛をぬき去って皮だけにしましたら、犬や羊の皮とほとんどえらぶところはありますまい。君子もそのとおりであります」(下村湖人『現代訳論語』)