◀前 【12.顔淵:第05】 次▶
司馬牛憂曰。人皆有兄弟。我獨亡。子夏曰。商聞之矣。死生有命。富貴在天。君子敬而無失。與人恭而有禮。四海之内。皆兄弟也。君子何患乎無兄弟也。
司馬しばぎゅううれえていわく、ひとみな兄弟けいていり、われひとし。子夏しかいわく、しょうこれく。せいめいり。ふうてんり。くんけいしてうしなく、ひとまじわるにうやうやしくしてれいらば、かいうちみな兄弟けいていなり。くんなん兄弟けいていきをうれえんや。
司馬牛が沈んだ顔をして子夏にいった。――
「誰にも兄弟があるのに、私だけにはない」
すると、子夏が慰めていった。――
「死生や富貴は天命だときいているが、兄弟に縁のうすいのも、やはり天命だろう。おたがいに道に志して、心につつしみを持ちつづけ、礼をもって社会生活の調和を保っていくならば、四海のいたるところに兄弟は見出せるではないか。道に志す者がなんで肉親の兄弟に縁のうすいのをくよくよ思う必要があろう」(下村湖人『現代訳論語』)