◀前 【05.公冶長:第18】 次▶子張問曰。令尹子文。三仕爲令尹。無喜色。三已之。無慍色。舊令尹之政。必以告新令尹。何如。子曰。忠矣。曰。仁矣乎。曰。未知。焉得仁。崔子弑齊君。陳文子有馬十乘。棄而違之。至於他邦。則曰。猶吾大夫崔子也。違之。之一邦。則又曰。猶吾大夫崔子也。違之。何如。子曰。清矣。曰。仁矣乎。曰。未知。焉得仁。
子張、問うて曰く、令尹子文は三たび仕えて令尹と為りて喜色無し。三たび之を已めて慍る色無し。旧令尹の政は必ず以て新令尹に告ぐ。何如ぞや。子曰く、忠なり。曰く、仁なるか。曰く、未だ知ならず、焉んぞ仁なるを得ん。崔子、斉君を弑す。陳文子、馬十乗有り。棄てて之を違り、他邦に至る。則ち曰く、猶お吾が大夫崔子のごときなり、と。之を違る。一邦に之く。則ち又曰く、猶お吾が大夫崔子のごときなり、と。之を違る。何如ぞや。子曰く、清なり。曰く、仁なるか。曰く、未だ知ならず、焉んぞ仁なるを得ん。
子張が先師にたずねた。――
「子文は三度令尹の職にあげられましたが、別にうれしそうな顔もせず、三度その職をやめられましたが、別に不平そうな顔もしなかったそうです。そして、やめる時には、気持よく政務を新任の令尹に引きついだということです。こういう人を先生はどうお考えでございましょうか」
先師はいわれた。――
「忠実な人だ」
子張がたずねた。――
「仁者だとは申されますまいか」
先師がこたえられた。――
「どうかわからないが、それだけきいただけでは仁者だとは断言できない」
子張がさらにたずねた。
「崔子が斉の荘公を弑したときに、陳文子は馬十乗もあるほどの大財産を捨てて国を去りました。ところが他の国に行ってみると、そこの大夫もよろしくないので、『ここにも崔子と同様の大夫がいる』といって、またそこを去りました。それからさらに他の国に行きましたが、そこでも、やはり同じようなことをいって、去ったというのです。かような人物はいかがでしょう」
先師がこたえられた。――
「純潔な人だ」
子張がたずねた。――
「仁者だとは申されますまいか」
先師がいわれた。――
「どうかわからないが、それだけきいただけでは、仁者だとは断言できない」(下村湖人『現代訳論語』)