◀前 【01.学而:第15】 次▶子貢曰。貧而無諂。富而無驕。何如。子曰。可也。未若貧而樂。富而好禮者也。子貢曰。詩云。如切如磋。如琢如磨。其斯之謂與。子曰。賜也。始可與言詩已矣。告諸往而知來者也。
子貢曰く、貧しくして諂うこと無く、富みて驕ること無きは、何如。子曰く、可なり。未だ貧しくして楽しみ、富みて礼を好む者に若かざるなり。子貢曰く、詩に云う、「切するがごとく、磋するがごとく、琢するがごとく、磨するがごとし」と。其れ斯を之れ謂うか。子曰く、賜や、始めて与に詩を言うべきのみ。諸に往を告げて、来を知る者なり。
子貢が先師にたずねた。――
「貧乏でも人にへつらわない、富んでも人に驕らない、というほどでしたら、立派な人物だと思いますが、いかがでしょう」
先師がこたえられた。――
「まずひととおりの人物だといえるだろう。だが、貧富を超越し、へつらうまいとか驕るまいとかいうかまえ心からすっかり脱却して、貧乏してもその貧乏のなかで心ゆたかに道を楽しみ、富んでもごく自然に礼を愛するというような人には及ばないね」
すると子貢がいった。――
「なるほど人間の修養には、上には上があるものですね。詩経に、
切るごとく、
磋るごとく、
琢つごとく、
磨くがごとく、
たゆみなく、
道にはげまん。
とありますが、そういうことをいったものでございましょうか」
先師は、よろこんでいわれた。――
「賜よ、おまえはいいところに気がついた。それでこそともに詩を談ずる資格があるのだ。君は一つのことがわかると、すぐつぎのことがわかる人物だね」(下村湖人『現代訳論語』)