◀前 【01.学而:第10】 次▶
子禽問於子貢曰。夫子至於是邦也。必聞其政。求之與。抑與之與。子貢曰。夫子温良恭儉譲以得之。夫子之求之也。其諸異乎人之求之與。
きんこういていわく、ふうくにいたるや、かならまつりごとく。これもとめたるか、そもそもこれあたえたるか。こういわく、ふうおんりょうきょうけんじょうもっこれたり。ふうこれもとむるや、ひとこれもとむるとことなるか。
きんこうにたずねた。――
「孔先生は、どこの国に行かれても、必ずその国の政治向きのことに関係されますが、それは先生の方からのご希望でそうなるのでしょうか、それとも先方から持ちかけてくるのでしょうか」
子貢がこたえた。――
「先生は、温・良・恭・倹・譲の五つの徳を身につけていられるので、自然にそうなるのだと私は思う。むろん、先生ご自身にも政治に関与したいというご希望がないのではない。しかし、その動機はほかの人とは全くちがっている。先生にとって大事なのは、権力の掌握でなくて徳化の実現なのだ。だから、先生はどこの国に行っても、ほかの人達のようにびたりへつらったりして官位を求めるようなことはなさらない。ただご自身の徳をもって君主にぶっつかっていかれるのだ。それが相手の心にひびいて、自然に政治向きの相談にまで発展していくのではないかと思われる」(下村湖人『現代訳論語』)