大学入試④ よくわかる
奨学金入試前から約束
 大学が多様な学生を確保するうえで、有効な手段のひとつとなるのが奨学金制度だ。受験前に給付を約束する〕「予約型」の奨学金で、在学費用の面で受験をためらう地方学生らの上京を促す私立大学が増えている。
 「総台大学として、日本全国から優秀な学生を確保していくことが教育研究の充実のために必要だ」。慶応義塾大学は2012年度に地方出身者向けの「学問のすゝめ奨学金」を始めた。
 東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏1都3県を除く高校の出身者が対象だ。人物、学業成績の面では優秀なのに経済的理由で入学が困難な学生を獲得する。一般入試前に申請を受け付け、出身高校が発行した調査書や親の所得などで候補者を選考し、「合格すれば給付する」と確約する。
 返還の必要がない給付型奨学金で、金額は年間60万円(医学部は同90万円、薬学部薬学科は同80万円)、16年度の定員は107人で、台格率などを勘案し約430人を侯補者にする予定だ。
 早稲田大学が09年度に先駆け、慶応大学が続いた地方学生向けの給付型奨学金は、私立大学の間で広がっている、「首都圏のローカル大学」となりつつある現状への危機感が背景にある。
 文部科学省の「学校基本調査」によると、全国から都内の大学に入学する学生の数は15年度に14万8000人だった。1995年度と比べ約2割増えている。ただ、首都圏以外の高校出身者が都内の大学に入学する数は15年度に約4万7000人と横ばい。結果として、都内の大学に入学する地方出身者の割合は約32%と6?低下した。
 経済的な状況が主な要因だとされる。地方高校に通う優秀な学生は、学費が安く自宅から通える地元の国立大学を志望する傾向が強まっているという。早稲田大学の入試でも首都圏以外の台格者の割合がここ数年は25~30%にとどまっている。
 学生の出身地が偏ることは何が問題なのか。各大学が口をそろえるのが「多様性の喪失」だ。
 14年度に地方学生向けの奨学金を創設した立教大学の学生部学生厚生課は「大学は多様な人材のるつぼの中でダイナミズムが生まれる」とその理田を説明する。出身地や経済状況などが多様でないと、学生が議論するうえでの論点が偏ってしまうなど学びの面で好ましくないとの見方は大学関係者の間で根強い。
 15年度にも青山学院大学など複数の大学が同様の奨学金を設けた。東京など大都市の私立か、地方の国公立か・・。迷える受験生を取り込む競争は激しくなっている。
《出典》日経産業新聞 (27/09/10) 前頁  次頁