高さ4㍍五重塔完成
国宝・瑠璃光寺の塔、精巧な8分の1ミニチュアに
 国分寺市本町の大工棟梁の末広明さん(73)が、高さ約四㍍の木製の五重塔を完成させた。ヒノキ材、銅板などを使い、三年四か月かけてつくった力作だ。末広さんは「細部にいたるまで精密につくり上げた。大工の意地です」と胸を張っている。

 この五重塔は、山口県にある国宝「瑠璃光寺五重塔」のミニチュアで、サイズは実物の約八分の一。仕事で使ったヒノキの廃材から部品を自分で切り出し、組み合わせた。屋根は、銅板(1.2㍍ X 0.4㍍)二十二枚から切り出した二千五百枚の瓦を一つひとつ重ね合わせた。制作に使う工具や宝輪、飾り金具なども手作りという凝りようだ。
 末広さんが大工になったのは終戦直後の十六歳の時。父親から「焼け野原の日本で家を建ててみろ」と言われたことがきっかけだった。その後、復興を続ける日本で全国各地を転々としながら、家を建て続けてきた。しかし、ここ数年は不況のあおりで仕事がほとんどなくなり、「大工としての腕をなまらせないため」、2000年五月に国分寺市建築組合の旅行で見学した瑠璃光寺五重塔の制作に取りかかった。
 自宅の地下作業所にこもり、毎朝八時半から午後六時まで黙々と制作。細かい図面はなく、大まかな完成図が出来上がると、その後は長年の経験を頼りに、改良を重ねていった。また、屋根や飾りに使う鋼板をその都度細かく切ったり曲げたりする独自の工具を考案したり、部品が一度はめ込んだらはずれないように、階によって異なる部品の寸法を正確に割り出したりした。
 独特な屋根の流線美や軒下の細かい木組み、扉など精密さが要求される作業だけに手の感覚が鈍る冬場が一番つらかったという。完成までの三年四か月、作業を休んだのは三度の元日のみという熱中ぶりだった。
 妻のノブ子さん(71)は、「気に入らない仕事をやっているときは『肩が痛い、腰が痛い』と体の不調を訴えるが、今回は一度も体を壊さなかった。好きなことをやっている間が一番安心なんです」とやさしく語る。
 完成した五重塔は、同市泉町にある都立武蔵国分寺公園で今月二日開かれた「国分寺まつり」で展示、注目を集めた。現在は自宅に保管してあり、希望者は見学することが出来る。
 末広さんは五重塔について、「国分寺には奈良時代の七重塔跡があるが、その再建への起爆剤になればとの思いも込めた。もし実際に再建することになれば、建築に携わってみたい」と夢を膨らませている。見学の連絡は末広さん(042-321-2496)へ。
《出典》読売新聞 (15/11/12) 前頁  次頁