建築家辰野金吾と安藤忠雄
《天声人語》
 明治時代を代表する建築家辰野金吾の代表作の一つ、赤れんがの東京駅が重要文化財に指定されることになった。完成は約90年前だった。東京の真ん中にあって、関東大震災や戦時の空襲をくぐり抜けてよく生き延びたものだと思う。
 その東京駅の一角にある東京ステーションギャラリーで開催中の「安藤忠雄建築展2003」(5月25日まで)を見ていると、時代の懸隔を痛感させられる。西洋で学び、西洋文明を目に見える形の建築として移植、その威容でもって文明の重みを教えた辰野の時代と、世界中に独特の感性の建築を輸出している安藤氏と。
 「再生」が展覧会のテーマである。ある場所に刻み込まれた歴史や記憶を生かしながらそこに新しいものをつくる。たとえば同潤会青山アパートの建て替えではケヤキ並木の風景を殺さないようにする。建物の過半を地下に潜らせ、建物の高さをケヤキ並みにする。パリでのピノー現代美術館建設も考え方は同じだ。
 「結局、私がつくろうとしてきたのは〈風景〉だったのかもしれない」と安藤氏もいうように、彼の作品は建物自体を強調するのではなく、周囲とともに新しい風景を創出しようとする。
 きのうは安藤氏の「トークショー」もあって狭い会場は若者であふれた。「日本はこのままでは沈没する。それを止めることができるのは、組織や看板に頼らず生きねばならないあなたたちだ」と独学の人らしい激励をしていた。
 9月11日のテロ事件の衝撃が消え去らず、跡地に土を盛るだけの墳墓案をいまも唱え続ける安藤氏である。
《出典》朝日新聞 (15/04/20) 前頁  次頁