接近する科学と技術
相乗効果で発展
戦後の技術革新の最大の特徴は、科学と技術の間の垣根が低くなったことである。科学の目的は本来、自然のしくみや法則を明らかにすることにあり、技術はそれを応用して人間生活に役立てることにある。両者の間には「科学的な知識をもとに技術が成立する」という因果関係(いわゆるリニアモデル)があるものの、歴史的に見れはそれが必ずしもスンナリと進んだわけではない。
しかし、最近では超電導やバイオテクノロジーなどの例に見られるように、科学的研究と技術開発の両面から同一課題を対象とするなど、科学と技術が混然一体となった研究が進んでいる。
当然の結果として、発明・発見と技術的応用とのタイムラグが短縮し、技術革新のダイナミズムを過大なものにしている。G・メンシュによれば、発明・発見から工業化までの時間的間隔は、写真技術百十二年、蒸気機関八十五年、電話五十六年、ラジオ三十五年、レーダー十五年と時代を追うごとに短くなっているが、戦後の技術革新を代表するトランジスタ、IC、コンピューター、レーザー遺伝子組み換えなどでは、さらに数年以内に短縮している。
科学的発見が新たは技術開発を触発し、それに伴う技術開発がまた新たな科学的研究を可能にするといった共鳴作用にも注目したい。現に高温超電導の例でいえば、その発見がMR1(磁気共鳴断層撮影装置)やSQUID(超電導重子干渉素子)の開発を促し、それによって生体のメカニズムが解明され、それがまたニューロコンピューターの発展につながっている。
このような展開の中では、科学から技術へ直線的な道筋で進むというリニアモデルにとどまらず、技術が科学の発展を促す「逆リニア的作用」が期待される。結果として科学と技術は相互に干渉しながらスパイラル(らせん状)な発展を遂げ、その成果は多様で相乗的なものになる。
しかし、科学の技術化を急ぐあまり、技術本来の姿に相反するような対応はなかっただろうか。クローン人間問題や動燃事故を目のあたりにすると、その感はぬぐえない。これから二十一世紀へ向けて科学と技術の垣根はいっそう低くなるに違いないが、それだけに大事になってくるのは技術のあり方を問うテクノエシックス(技術倫理学)ではなかろうか。(工業調査会社長 志村幸推)
《出典》毎日新聞 (11/01/26) 前頁  次頁