再生紙で万博のパビリオンを造る
建築家 坂 茂
ドイツのハノーバー市で開く2000年万国博覧会で、日本のパビリオンの建築を手がける。しかも、再生紙で造る。約150年の万博の歴史で、紙のパビリオンは、多分、初めてだ。

「紙で建物を造る」。こう聞くと、だれもイメージがわかない。けれど、実際に建築の現場を見ると、みんなが「なるほど」とうなずく。

阪神大震災で焼け落ちた神戸の教会の敷地に、被災者の集会所を建てた。直径33㌢の円筒形の柱が、だ円形に58本並び、布の屋根を支える。円筒は防水加エした再生紙を巻いてつくった。「紙の教会」である。

アフリカの難民キャンプでも、テントの支柱に紙管(紙の筒)を使う実験を続けている。木材だと森林伐採につながり、金属ではコストがかさんでしまうからだ。

どちらも、自ら関係者に働きかけて実現させた。東京生まれ。米国で建築を学び、1980年代半ばに東京に事務所を開いた。そのころから紙に注目してきた。「材料を無駄なく使いたい。ものを捨てるのがもったいない」。そんなことを考えていたとき、何の変哲もない紙の筒が目の前に転がっていた。それが出あいだった。

バブル期はほとんど注目されなかった。それが、地球環境の危機が叫ばれるようになって、独特の再生紙の建築が世界とコミュニケーシコンできる道具になった。時代は後からついて来た。

日本パビリオンでは、紙管を組み合わせ、これまでの建築をさらに進化させる。「完成して終わり、ではなく、使った紙や布が、その後、どう再生されるかまでの物語を構想したい」。

高度成長や大量消費を象徴する万博は終わったとも言われる。万博が生き残るための手がかりを、紙が見せるのかも知れない。
《出典》朝日新聞 (10/04/11) 前頁  次頁