地球温暖化(安藤忠雄)
環境問題は、一人ひとりの意識の中にある
地球温暖化を防止しようという目的のもと、京都で開かれていた国際会議が今日で幕を閉じる。各国の利害が衝突し、さまざまな思惑がうごめいた。

これまで私は、いくつもの住宅を手がけてきたが、その住み手が、寒い寒いと訴える。

私は下町育ちで、長屋で生活を続けてきた。そこでは風が走るのが見えるほどだったから、当然寒かった。
しかし自然に身体が適応し、十分生活を営めた。
冷暖房などなくとも、衣服で調節すれは何とか凌けたものだ。
そんな体験に基づいてつくるものだから、私の設計した住宅は、軽装備であるという点で施主には評判が悪い。

しかし、人間の暮らす環境は過度に調整されるべきではないという考えは今も変わっていない。

人間は、自然の恩恵によって生かされていることを忘れて、その恵みを浪費するようになると、間違った道を進むことになる。
生態系の中で自らが突出した存在になることは、他の生命の存在をいたずらに危うくすることであり、当然その反発は自分の身にはね返ってくる。

日本人には古来、自然とともに生きるという思想があったが、近代文明、特に戦後の消費文明に踊らされ、目先の快楽を追求し、自然は制御可能はものと思い込み、やがて地球全体の環境に影響を与えるまでになってしまった。

生産活動と地球環境の因果関係が判然としなかった頃はまだ仕方がないが、今や、地球温暖化の原因とその影響はほぼ究明されているし、気象が変調をきたしていることに気付かぬ人はいない。

なのに、発展途上の国はともかく、先進国までが現状維持すらままならないという。子孫に大きな負債を手渡すことがわかっていながら、従来型の発展を追い求めるつもりなのか。

戦後の発展で築き上げてきたものが、いったんすべてなくなったと考え、原点にもどって発想し暮らしていくくらいの心構えがこれからは必要だ。

環境問題は、一人ひとりの意識の中にある。(建築家)
《出典》朝日新聞 (10/04/02) 前頁  次頁