私の工務店経営
建築主との対話が大切 / 珪藻土で健康住宅を
JR目黒駅から目黒通りを下っていき、目黒川を越えると山手通りとの交差点に辿り着く。山手通りを挟んだ向こう側には青々とした木々に囲まれた大鳥神社が見え、その対角線上の小道を進んで直ぐの所に本社を構えているのが、今回訪れた㈱建匠(本社:東京都目黒区、辻隆夫社長)である。

いいものを造りたいとの願いから付けられた同社の社名にあるように、社員一同が建築の匠といえ、建てた住宅も今までに建築士事務所協会や世田谷区などから賞を受けている。

同社は、東京や埼玉など首都圏を中心に車で一時間程度で行ける範囲を営業エリアとしており、100%口コミ受注を行っている。そのために、建築主の方を大切にし、紹介を受けたら困難な条件であってもなるべく要望に沿うように努力しているとのこと。

主に、以前の建築主からの紹介が多いが、銀行や設計事務所などからの紹介もある。

会社を設立したのが昭和52年、設立当初の10年間は在来木造を中心にやっていた。

仕事が軌道に乗りはじめた10年目あたりから、設計事務所からの紹介もあり、鉄骨・RC造も始め、今では2x4も導入し、建築主の要望になるべく答えようとしている。

現在の同社で施工する住宅の5割以上はやはり在来木造であるが、3割をRC造や鉄骨を行い、残りの1、2割が2x4住宅とのこと。

住む人に合わせ本物を見せる。「アフターメンテナンスをシッカリ行っており、その仕事ぶりが良かったのか、会社を設立して2、3年目からの付き合いになる建築主が、自宅の立替えを行う時にも声をかけていただけた。

お客との付き合いは一生のもの」と語り、建築主との付き合いを大事にする辻社長は、「今までのように、これからは工務店へ黙っていても仕事が供給されるかは疑問。建築主にマッチした住宅を造ってあげなければいけないのではないか。Aと言う人にはAと言う住宅を、BにはBの住宅を建てなければいけない。住宅とはお仕着せであってはならず、住む人の生活を包み込むものでなければいけない。家族の生活感・日常などにより、住宅は変わっていく。

それらを建築主との対話のなかで吸い上げなければいけない」と、住宅に関する考え方を語ってくれた。

そして、建築主に合う住宅を建てるだけではなく、手作りの良さが見えなけれはいけないとの考えから、珪藻土や本物の木を見せる家造りを行っている。

本物の木を用いると使えば使い込むほど深みのある味わいが出てくる。予算の関係上、どうしても使えない場合もあるが、国産材を使うようにはしているとのこと。

RC造においても、在来における手間と同様の手間をかけ、水っぽくザラザラしたコンクリートは使用しない。粒子も細かく、角はピシツと仕上げており、内部の造作には温もりが感じられるように木を用い、メリハリを付けている。

設計事務所と提携デザインを豊かに同社では、設計部門を確立しており、設計事務所との付き合いも多い。それは、設計部門の担当者が設計事務所出身で、設計事務所の出す

設計思想を読み込んで、その要望に施工サイドとして答えることができるからである。

そのような繋がりから、4年前には、日頃からお世話になっている設計事務所や工芸家の方々と、五反田の東京デザインセンターで「光・彩・風・雅」と言う現代建築家展を開催し、同社の設計部も参加した。付き合っている設計事務所の7割は住宅を専門にやっており、それぞれのカラーはあるが、付き合っていく中で、そのセンスを吸収し、自社のバリエーションを増やしていければとのこと。

企画と言う面ではさらに、毎年夏休みには「親子木工教室」を開催している。参加費は無料で、大体30組前後の人に毎年参加してもらっているとのこと。

この教室は大変盛況で、最近の親は、自分自身でもそのような経験をしたことがないので、親子の対話にも一役買い、親自らが楽しげに造っているとのこと。同社手前の道に面するようにポスターを貼り、開催を告知するが、その道がプールのある区民センターの通り道なので、直ぐに予約がくるとのこと。長年開催しているので、すでに町の人にも認知されておりPTAの方からは、今年は何時ごろ開催するのかと問い合わせがあるほど地域に溶け込んでいる。

子供達にモノを造る喜びを知ってもらうことが一番の喜びと語る辻社長だがモノを造る喜びを知ってもらい、将来の職人不足の一助となればと、職人対策を重要な課題として取り組んでいる意向を少し覗かせている。

社長の夢は、今はまだ研究段階ではあるが、地下水を利用して、都会のヒートアイランド現象を低減できるバウビオロギー的な住宅を造ること。そのために、住宅の屋上に庭園を設けることによって室内を涼しくさせる環境共生をもっと研究していき、これからの仕事に役立てていきたいと語ってくれた。

《出典》日本住宅新聞 (09/07/25) 前頁  次頁